Enmeiji延命寺

天竺ロック vol.6

 

Vol.6
 ロック、この一枚 -プロコルハルムが好きだった-

 

 

 今回は比較的メジャーな、といっても『青い影』がでかすぎて、なかなかそれを越えられないというパターンから抜け出せないようだが。

 だがこの楽曲は化け物。イギリスで選ばれた20世紀を代表する名曲でも、常にトップ・クラスをキープしているし、またカヴァーヴァージョンも多岐に亘る。日本でもたしかスパイダースなんかが歌っていたような記憶がある。もっとも、かなり歌唱力を要求される作品なので、誰が歌ってもと言う訳にもいかないのだが。

 今更曲の説明の必要もないだろうが教会風オルガンをバックに、R&B風のヴォーカルの組み合わせの妙。加えてそれまでのポップスの常識を越える哲学的な歌詞。これはもうキース・リードの作詞家としての能力の高さだろう。影響力で言えばエルトン・ジョンに対するダニー・トーピンのようなもの。ブリティッシュ・ポップのレベルの高さを示すものといえよう。

 だからどうアレンジするか、歌い上げるかで歌手の評価も変わってくる。初期にはジョニー・リバース(懐かしい)、クラプトンからキース・エマーソン、ウィリー・ネルソン、etc、いくらでも出てくる。個人的には『With A Little Help From My Friends』をヒットさせたジョー・コッカーと、なんともドラマチックな演出MTVのアニー・レノックスが好き。サラ・ブライトンは……。本邦ではユーミンがプロコルハルムを呼んでライヴで歌っているそうだ。彼女、かなりのマニアのようである。

 私は70年初頭に武道館ライヴを観たが、なんとテン・イヤーズ・アフターとのカップリング。どっちも好きだが抱き合わせはないでしょう。なんと『青い影』で手拍子。これにはプロコルハルムも「真っ青」。同じデラムというレーベル関係でそうなったと思うのだが、いかに当時の呼び屋がロックを判っていなかったかという証明でもある。

 後に作曲問題でもめるオルガンのマシュー・フィッシャーや、当時ロイ・ブキャナンなどと並び、ジミヘンの再来ともいわれたロビン・トロアー。彼が前面に出た『ブロークン・バリケード』なんて、プロコルでなければ、違った意味で十分に傑作。それにツェッペリン結成に誘われたドラムのバリー・J・ウィリアムソンなど顧みれば錚々たるメンツが揃っていた。断った理由がプロコルハルムが忙しいからと言うのもいい。実際に舞台を観て、ロック離れ?した巧さに驚いた。もしツェッペリンに入っていたらと、考えてしまう。

 いろんな意味で一発屋ではないというのは判ってもらえただろう。彼らの前身バンド、パラマウンツがストーンズが最高のR&Bグループと呼んで、前座に使っていたとか、ジョン・レノンが「人生で最高の3曲の一つ」といったとか伝説には事欠かない。なにより、これは『青い影』効果だと思うが、ウィキペによれば23回も再結成されていると言うのが凄い。1曲当てれば食っていけるということなんだろうが、それにしても、である。

 個人的には最高のアルバムは『グランド・ホテル』が一番好きだ。なかでも[FIRES(WHICH BURNT BRIGHTLY)]がいい。それに、なぜか日本のライナーではでは取り上げられていないが、ソプラノのクリスチャン・ルグランの凄さ、素晴らしさ。あのスウィングル・シンガーズのディーバ。ついでにミシュエル・ルグランの姉という豪華な血筋。これは関係ないか。70年代最高のプログレ・アルバムという評価もあるそうだが、タイトル曲の[GRAND HOTEL]から泣かせる。フランスのリッツの豪華でアンニュイな生活を、それこそ嵌め絵のように散りばめたノスタルジックなアレンジ。まるでアガサ・クリスティーのポアロの世界である。ピアノにオルガン、太い音色のギター、時にコンチネンタル・タンゴを思わせるストリングス。こんなバンドは他にない。

 もう一枚選べば1968年のセカンド・アルバム『月の光』か。[Shine on Brightly]が原題だったと思うが、この一連の曲も『青い影』を思わせるクラシカルでソウルフルという持ち味が十二分に発揮された名曲だ。しかし後のロック界へ与えた影響を考えれば[IN HELD 'TWAS IN I GLIMPSES OF NIRVANA]だろう。当時としては大曲の18分という尺に、組曲風に組み合わされた個性的なソロとヴォーカル。朗読も珍しければ、ピアノとユニゾンのシタールなんて、ちょっと表現に困ってしまう。いずれにせよ発売年度を考えれば、他に類を見ないプログレ・バンドである。それにしてもジャケットが違いすぎる。現在出ているのがオリジナルだそうだが、美しさではグリーンのマネキン風人形がオガンを弾いているのが美しかった。高校の時に買ったオリジナルLPはなんとライヴ写真。全く内容とのリンクを感じさせないというありがちな盤だった。

 とにかく、クラシカルな背景とR&B感覚溢れるヴォーカル。サウンドの特色としてはピアノとオルガンのダブル・キーボード。これを前面に押し出したバンドはイギリスでは珍しい。

 ほとんどがギターバンドか、ナイスのキーズエマーソンのように暴れまくるキーボード。端正なグルーブ感を持った響きは貴重なものといえよう。アメリカのザ・バンドと比較する向きもあるが、やはり方向は異なる。これも唯一無二のバンドだと思う。

星川京児