精霊と女性の国 北タイ

43  タイ・パーマ事情〜 1990 年北タイ農村〜
  私たちが家を借りていたメー・カイの三女のノンヤオ(52324参照)は、村でただ一人のパーマ屋だった。ワット(寺院)で村全体の儀礼が行われる日になると、その前日と当日、自分の家の入り口の前に椅子を1脚置いて開業する。
  客は椅子に腰かけてノンヤオに髪をササッとカットしてもらい、カーラーを巻いてもらう。その周りを他の客や何のためにその場にいるのかわからないような女性たちが囲んで、ある人は立ち、ある人は地面にしゃがんで、客を見ながら話をしている。

  カーラーを巻いた髪にパーマ液をかけられて適当な時間になると、客同士で互いにカーラーをはずし合ったりして、井戸水ですすいでもらう。もちろんタイマーは使わないので、ほんとうにノンヤオが適当だと考える時間だ。すすぎはノンヤオの姉、チャン(1823参照)の分担だ。チャンは大きな口を開けて大声で冗談を言いながら、井戸から水を汲み上げてはバケツで頭にかけてくれる。しっかり者でよけいなことは言わない妹とは対照的に、チャンはいつでも冗談を言って笑っている。
  ドライヤーはないので、髪を絞って水気をとるとおしまい。ブローはなし。暑くて空気が乾いているので、濡れた髪を気にする間もなく、乾いてしまう。

  入安居のときにも、村の中年以下の女性の多くがノンヤオの店に行って、一様に大仏の頭のような丸いパーマ頭になってしまった。村では祭りの日の朝には、ノンヤオの手になる同じ形の大仏頭が、あちらでもこちらでも一張羅のブラウスを着て歩いているという有様だった。このパーマの材料と道具は、シーロー(乗り合いバス)の運転手である夫のサグワンがランパーンの街で買ってくるのである。

  私もこの臨時パーマ屋に出かけて、(今から思い返せば「果敢にも」とか「無謀にも」という言葉をはさみたくなるが、)客になった。この大仏頭になるのがいやで、ノンヤオや客とも見物人とも手伝いともつかない女性たちにあれこれ注文をつけていたら、チャンが茶目っ気のある顔をして「キー・スアイ」と私を指差して笑う。するとそこにいた女性たちも口々に「キー・スアイ」と言いながら笑いさざめいた。
  キーは「〜しがちな」とか「よく〜している」と言うときに使われる、使用頻度の高い言葉だ。スアイは「きれい」。ここでは「きれいになろうと思って・・・」とでもいうようなニュアンスだ。

  村に来る前、チェンマイの街で美容院を見つけて入ったときは、中に高さ1mくらいのベッドのような台があって、そこに上がるように示された。臆する気持ちを乗り越えてよじ登り、仰向けに寝ると、はや、店に入ったことを後悔し始めたが、逃げ出したくなるのを抑えて「オーン(緩やかに)」と頼んだら、せっかくかけるのに「オーン」じゃもったいないじゃないかと聞いてもらえない。それでもなお「オーン」、「オーン」と繰り返していたら、発音がおかしいのかバカの一つ覚えのように一つの言葉ばかり繰り返すのがおかしいのか、皆で笑い出したので、観念してされるがままになることにした。

  数年後、バンコクで銀行に勤める女性たちにインタビューしようと待ち合わせたとき、彼女たちは皆、一糸?乱れぬ髪形でさっそうと歩いてきた。パーマをきっちりかけ、毎朝ブローをしっかりして髪形を決めるのは、タイの都会のオフィスに働く女性たちのプライドなのだと、かつてバンコクの銀行で働いていた経験のあるタイ語の田中美代子先生は教えてくださった。


川野美砂子

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