精霊と女性の国 北タイ
42 シーローの運転手サグワン |
ポ・モエ(5参照のこと)の息子のサグワン(41参照)は、シーローの運転手だ。シーローとは「4つの車輪」という意味で、小型トラックの荷台の両側にベンチを取り付けて、幌を張ったものである。十数人も乗ればいっぱいになる。
このあたりの村々にはそれぞれ数台ずつあって、早朝に村を出て午後2時頃帰ってくる車が多いが、村の小学校の先生たちのために、午後に村を出て夜8時近く戻ってくる車もある。先生たちは一人を除いて全員、ランパーンの街から通っているのだ。
シーローはバイクを除けば村と街を結ぶほとんど唯一の交通手段で、運転手は客を運ぶだけでなく、手紙を町の郵便局に持っていったり、頼まれた買い物を街でしてきたりする。サグワンの車はポ・モエの店の品物の仕入れもするので、ランパーンからの帰りには屋根の上まで人と物でいっぱいだ。
急病人が出たり、妊婦が産気づいたときにも、仕事に出ていないシーローに150バーツか200バーツ払って、街の病院まで運んでもらう。
村はある面ではまとまりをもっているが、経済的には都市に依存しているので、村と街を結ぶシーローは村の生活を成り立たせる上でなくてはならない。シーローの運転手になることは男たちの夢だ。サグワンの弟のサウィンも11月半ばに始めることになるのだが(後述)、このときサウィンの筋向いに住む3男のサネンは、「シーローの運転手になりたいけれど金がない」とぼやいたものである。
サグワンはまだ若いのに村の二人の助役の一人で、毎月4日に開かれる村の会合で議事進行役を務める。7月初めの「入安居」(いりあんご、僧侶の雨季籠もりの始まる日、後述)に寺で行われた村全体の儀礼でも、村長の挨拶に続いて、タン・ブンした人の名まえとその金額を読み上げていた。
サグワンはシーローの運転手をし、店の仕入れをし、村人たちからの様々な頼まれ仕事や買い物を引き受けて、おまけにトラクターで他の家の田起こしまでする。村の助役も務めて、「村で働きづめなのはサグワンとカット」と言われるほどだが、サグワンの妻のノンヤオ(5参照)も負けず劣らずよく働く。ノンヤオはメー・カイの末娘で、プラヤット(3参照)やプルアンの姉、そしてプレック(33&40参照)の妹に当たる。
(川野「モエ家の特別な一日」河出書房新社『アジア読本 タイ』より一部転載)
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