精霊と女性の国 北タイ
33 彼女はメー・カイの「親戚」なの? |
離婚と再婚は1990年に私が住んでいた北タイの小さな村でもよく見られた(27参照)。
稲の収穫の終わった季節、山間扇状地に広がる水田の一つで、その両端に立ち、間に細い綱を張って、田を2分している男性たちを見かけた。何をしているのかと尋ねると、この田の持ち主の夫婦が別れるので、田を折半しているのだということだった。
メー・カイの4男のプレック(35)は、妻のナットがクィティオ(タイ風ラーメン)屋をやっていて、7歳くらいの男の子がいたが、ナットの店でクィティオを食べながら、村の人々に話を聞いたりしていると、プレックの前の妻との間の15歳くらいの少女が、ナットのそばに立っている姿を見かけたものだ。少女は山岳地帯で教師をしている母親のもとからこちらの方に来るときには、父親の家に寄るらしいのだが、昼間は家にいないことが多い父親を待つ風情もなく、敷地内でクィティオや家の仕事をしているナットのところに来ると、当たり前のようにお小遣いを少しもらって、また行ってしまう。
長女のチャン(39)も、最初の夫はチェンマイに住んでいて、今は別の男性が彼女の家に住んでいた。チャンの3人の娘のうち次女のサーンワーン(20)は、祖母であるメー・カイの家に住んでいたが、それはこの男性を嫌っているからだということだった(18参照)。
山岳地帯に住む次男のパン(37)は、妻と3歳の男の子を伴って定期的にメー・カイの家に来たが(22参照)、時おり途中でサラーウットという名の15歳の少年を乗せて来た。彼はパンの前の妻との間の子どもだった。
あるときサラーウットが、それまで見かけたことのない娘と仲睦まじくメー・カイの家の敷地内を歩いているのを見かけたので、メー・カイに「彼女はサラーウッドの恋人か、それともクラスメイトか」と尋ねると、「ヤート(親戚)だ」という答えだった。
北タイの村の人は「ヤートだ」と答えるとそれで充分だと思うようで、さらに「具体的にはどういう関係なのか」と尋ねても、何を聞かれているのかわからない様子で、「ヤートだ」を繰り返すばかりである。それは私たち日本人の感覚で考える「関係」について話したくないからではなくて、どのような血縁と姻戚関係でつながっているかとラインでたどる考え方が希薄だからだということが、村で同じやり取りを繰り返すうちにわかったことだった。
それで、「彼女はサラーウットのお母さんのお姉さんのこども?」などとあれこれ当てずっぽの問いを重ねていって、ようやくわかったのは、彼女はサラーウッドの母の、パンと結婚する前の夫との間の娘だった。立派な体格と大人びた風貌で18くらいに見えるサラーウットとお似合いのように見えた彼女は、はたちの大学生だったが、華奢で小柄なので少女のように見えたのだ。
息子の別れた妻の前夫との間の娘は、日本では「親戚」とは呼ばないだろう。それどころか、なかなか複雑な感情の対象になりそうな関係であった。