精霊と女性の国 北タイ
27 離婚と女性の経済的自立 |
タイの家族のゆるやかな構造を作っている重要な要素に、離婚と再婚が容易であることがある。これはタイだけではなく東南アジア全体で観察されてきた、そして現代的現象というよりは、古くから大きくは変化することがなかったと思われる、結婚と家族についての特徴である。
16、7世紀、大航海時代のヨーロッパの人々が東南アジアを訪れて、その見聞を記した記録を集め、具体的な項目ごとにまとめた書物『大航海時代の東南アジア』の中で、アンソニー・リードは「結婚」という項目を、「結婚の一般的形態は、双方にとって離婚が比較的容易な一夫一婦制であった」という文で始めている。一般の人々の間では、「離婚の容易さが一夫一婦制を支えており、離婚が不満足な関係の終わらせ方として歓迎された」のである。
タイに関しては、シャム(中部タイ)についての1600年代の記録から、「夫も妻も、財や子どものことに頭を悩ますことなく喜んで離婚し、またそれがよいと思えば恥とか罰とかをなんら気にしないで再婚する」という記述が引用されている。リードは「重要なのは東南アジア全体を通じる文化の型として女性の自立性が高く、離婚は女性の生計の質や親族との関係に大した影響を及ぼさないという事実であった」と述べている。
この、特に女性にとって離婚を可能にする自立性を実現しているのは、女性の経済力である。女性の経済力の内容として、経済的領域における女性たちの活動(25参照)のほかに、北タイにおいては特に、むしろより基本的であると考えられるのは、家族のあり方と結びついた財産の所有形態、相続の形態である。
タイでは相続形態は一般に均分相続であり、子どもたちは男女に関わらず潜在的に等しく親の財産に対する権利をもっている。しかし特に土地などの不動産の場合、親の近くに住むか同居し、実際にその土地で耕作している子供に分割される。つまり潜在的権利は実践によって実現可能になるのである。
したがって特に妻方居住の傾向の強い北タイにおいては、農地は息子よりも娘たちに相続されることになる。また家と敷地は「家の精霊」と共に、親の老後を見る末娘夫婦に相続されるのである(5&7参照)。こうして北タイでは、女性たちは親の土地や財産に関して有利な立場に立っている。
さらにタイでは、結婚に際して夫婦が持ってきた資産は結婚後も各が所有し、離婚の場合にはそれぞれ自分の財産としてもっていくことが慣行であった。結婚後共同で築いた資産が共有財産とされ、離婚時には折半されるのである。これはタイ国で1350年から1805年の間に制定、公布された法令や布告を編纂し、タイ最古の成分法典とされる三印法典に定められている。
女性はこうして結婚・離婚後も自分名義の土地や財産を所有し続けるのである。