精霊と女性の国 北タイ

45  サマック前首相とラフ

  日本で麻生氏が首相に選出されて、新内閣を発足させた9月24日、タイでもソムチャイ新首相による閣僚名簿が発表され、新内閣が発足した。ソムチャイ氏が首相に就任することになったのは、日本でも報じられてきたように、サマック前首相が今月9日、タイ憲法裁判所により、就任後もテレビの料理番組に出演し、出演料を得ていたことに対して憲法違反の判決を下され、失職を宣告されたことによる。けれどもサマック前首相に対する退陣要求は、今年2月6日に内閣が発足してまもなくの6月20日には、すでに1万人を超す規模の反政府集会が開かれるまでの勢力となって行われていた。

  そして先月末の8月26日、「市民民主連合」(PAD)がバンコクを中心に大規模な反政府デモを行い、首相府を占拠して、再びサマック前首相の辞任を要求した。9月2日未明にはPADと親政府派の「反独裁民主主義連合」(UDD)が衝突して、死者1名、負傷者40名以上を出す事態となり、サマック首相はバンコク全域に非常事態宣言を発令した。

  ちょうどこのときバンコクに滞在していた私は、サマック前首相がまだ辞任の要求を拒み続けていた9月7日(日曜日)の朝、バンコク・ポストで興味深い記事を目にした。前首相はこれまで問題に対する回答を、ワット(寺院)に求めてきたという噂があるというのである。

  サマック前首相はその前日の土曜日、6日には公式行事の予定はなかったのだが、朝10時頃、警護のお供を引き連れて車で官邸を出るところを記者たちに目撃された。記者たちの追跡はガードマンたちに妨害されたが、首相は退陣を要求する批判の中で高まる精神的プレッシャーで低下した士気を高めるために、ワットにタン・ブン(喜捨して功徳を積むこと。12,13,14,15参照)に行ったに違いないと報じられた。

  近い筋によると、前首相はそれまでにも士気が低下するとたびたびワットに行き、タン・ブン儀礼をして、喜捨してきた。彼はまた仏陀のお守りと仏像のコレクターで、仏像を作らせては贈り物として人に与えてきた。その中でももっとも有名な仏像はプラ・パイリー・ピナス(敵を打ち破る)というもので、前首相は公的行事でこのプラ・パイリー・ピナス像を、人に対する評価の印として贈呈してきた。また結婚式では花嫁にプラ・サイアム・テワティラート(シャムの守護神)をあげるのが恒例になっていた。

  このタン・ブンの話よりさらにおかしいのが、占星術師たちの予言とラフの話である。首相就任後、多くの占星術師たちが、サマック氏は困難な状況を迎えるであろうと予言してきた。前議員で、同時に有名な占星術師でもあるブーンラート・パイリンは、サマック氏の星は彼が大きな問題に直面していることを示していると述べて、首相としての地位を失う可能性が高いと予言した。ところがそのような暗い予想が予言されればされるほど、前首相は悪い運を近づかせないように努力するだろうと考えられていた。

  サマック氏が首相に就任したとき、占星術師たちが、彼はその地位に長くはいられないだろうと予言したのに対して、彼は怒った反応を示したのである。しかしその後彼は、フア・ラムポングの近くの寺が行った、「闇の神」ラフを信仰する儀礼に参加するところを目撃されているのだとのこと。このラフとは占星術に登場する9体の天の神々のうちの一つで、月の軌道と黄道の交点に当たる。神々の中でも主神格で、同時にもっとも危険であるとされている(21を参照のこと)。

  この記事が新聞に載った日の二日後、9日の午後、私が通っていたチュラロンコン大学の研究所では、職員たちが全員テレビの前に釘付けになっていた。憲法裁判所の判決を人々は固唾を呑んで待ち受けていたのだが、私はこのときまさか占星術師たちの予言がにわかにその正しさを顕すことになろうとは夢にも思わなかった。

  裁判所はサマック前首相に対し憲法違反の判決を下し、失職を宣告した。それでもその段階ではまだ首相再任の可能性も考えられていたのだが、それも断念せざるをえない状況に追い込まれて、12日にはついに、今年1月28日に首相に指名されてから7ヶ月半で、その座を降りることになった。これによって副首相であったソムチャイ氏が首相代行を務め、14日、非常事態宣言を解除して、17日、下院本会議で新首相に選出されたのである。

川野美砂子

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