精霊と女性の国 北タイ
4 「離れ」と「小さい寝室」 |
私たちが借りた家は、1階にトイレ、2階に床が1段高くなった寝室が一つあるだけで、あとはオープン・スペースになっていた。1件の家というよりは、むしろ母屋から独立した部屋といった方がいい、ちょうど日本の「離れ」のような建物だった。それはかつてメー・カイの子どもたちが結婚して次々に住んだ家である。結婚した子どもたちは今ではみなそれぞれ独立した家に住み、あとには未婚の二人の息子が残るだけになったので、空いていたのである。
「母屋」は亡くなったメー・カイの夫が30年前に建てた家だったが、「離れ」は15年前に次女のカイムック「真珠」夫婦のために建てたものだった。カイムックは結婚当初、夫と共に母屋の「小さい寝室」(2を参照のこと)で暮らし、それから「離れ」に移り、その後ランパーンに住んで病院で看護婦をしていた。
「離れ」にはカイムック夫婦が住んだ後、兄のプレックと妻が住んだが、そのプレック夫婦も今ではメー・カイの敷地と背中合わせの位置にある、幹線道路沿いの土地に住んで、クイティオ屋を開いていた(店をやっているのは妻の方だが)。さらに妹のノンヤオと夫が「小さい寝室」、次に「離れ」に住み、今は同じ道沿いに歩いて10分ほど行った所に住んでいる。ふつうは1年ほどで親の家を出るのだが、ノンヤオは末娘なので4、5年あまりいたという。「離れ」やその後独立した家に住む子どもたちから見て、自分たちの育った親の家は「古い家」と呼ばれる。
北タイでは妻方居住、つまり結婚すると夫婦はまず新婦の家に住むことになっている。
だから結婚式は新婦の家で挙げて、そのまま新婦の家の「小さい寝室」で新しい暮らしを始める。しかしその夫婦も妹が結婚して夫が家に入ってくる頃までには、親の家を出なければならない。一つの家に同世代の夫婦が2組以上住んでいると、家は分裂すると考えられているのである。
親の家を出るときまでに夫婦が自分たちの家をもてるほどお金を貯めていれば別だが、ふつうは親の敷地内に別の部屋を建ててもらって住む。初めは食事も親の家でするが、次第に自分たちの所に台所を作って別に食事をするようになる。親の敷地が充分広ければそのままそこに独立した所帯をもつことになるのだが、それほど余裕がなければ敷地を出て、別の所に所帯をもつ。
こうして息子は結婚で家を出、娘夫婦が順番に親の家から独立していって、最後に残る末娘夫婦が年老いた親の世話をしながら家に残ることになる。そして親が亡くなると、この末娘夫婦が家と敷地を相続するのである。北タイの家族の形は、理想としてはこのような家族周期を辿ることになっている。