インディカ舞

観音経とアメイジング・グレイス その一
先日、NHKでゴスペル・ソングとして知られている「アメイジング・グレイス」の番組を見ました。「神の奇しき恵み」という意味の歌です。ニューヨークでの9.11のテロの後、よくテレビで歌われていましたね。
もともとは奴隷商人をしていた18世紀のジョン・ニュートンという白人の書いた詞でしたが、後に黒人たちも共感して黒人教会でも歌われるようになりました。彼が貿易船で難破した時に、九死に一生を得たという寸劇を学生が演じているのを番組で見ました。
これを見て観音経の場面を思いました。
「或漂流巨海 龍魚諸鬼難 念彼観音力 波浪不能没」。
水難、火災、天災、賊や魔物、獣や蛇に遭ったとき、困ったとき、悩んでいるとき、あらゆる困難を救ってくれます。悲しい時、苦しい時に力を得ます。
「アメイジング・グレイス」はアメリカ人の観音経だと思いました。奴隷売買をしていた、ならず者の彼でさえ慈悲によって救われたといいます。人々は、困難な状況にある時、この歌を歌って祈ります。
これはスピリチュアルと呼ばれるジャンルの歌です。ウェールズかスコットランドの民謡のメロディーにジョン・ニュートンの詞を乗せて歌ったようです。詩編や賛美歌など教会の典礼の中で歌われる正式な宗教歌ではなくて、野外キャンプで伝道集会をしたときなどに歌うものです。
ニグロ・スピリチュアル、すなわち黒人霊歌もまた、アイルランド民謡などのメロディーに自分たちの作った詞を乗せて、改作し歌ったものが多いようです。「時には母のない子のように」が日本ではよく知られています。
アメリカの建国はピリグリム・ファーザーズと呼ばれている、メイフラワー号に乗って1620年にやってきた清教徒たちによるとされます。彼らはイギリス国教会に反発して逃れてきたプロテスタントでした。インディアンを追いやり、西アフリカから黒人を連れてきて奴隷にしました。
18世紀後半になるとイギリスに発したプロテスタントの大覚醒運動がアメリカでも盛んとなり、奴隷への教化が行われるようになります。
しかし、神の前に人は平等であるという思想を奴隷が持つのは奴隷制度の根幹を揺るがすものとも考えられ、消極的な農園主も多くいました。やがて、従順な奴隷にするため、主人に忠実に尽くして仕事に励むようにとお説教するようになります。
リンカーンは1863年、奴隷解放宣言を発布します。教会は黒人も積極的に迎え入れるようになり、野外伝導集会もまた大規模になってきます。リバイバル(信仰復興)集会とも呼ばれます。サーカスが使う大きなテントを張って寝泊まりし、お説教を聞き、信仰を告白し、牧師の唱える聖書の文句を復唱したり賛美歌などの宗教歌を歌いました。
今でいう野外コンサートのような盛り上がりです。1969年のウッドストック・フェスティバルなんかもその再来を思わせるものがあります。
アイラ・D・サンキーという伝道師は、19世紀の歌を集めて「ゴスペル賛美歌集」を出版した伝導集会における歌唱指導の第一人者です。ゴスペル、すなわちゴッドスペルとは福音、グッドニュースという意味です。
サンキーはムーディーとともに、イギリスとアメリカの諸都市を巡って伝導します。1893年にはフォアパウ・サーカスから大テントを借りて、シカゴ万博会場で日曜礼拝を開催しました。参加者は1万8千人にも上ったといいます。サーカス側はその動員力に驚いて、サーカスの常設演目にして伝道師を巡業に連れて行きたいとまで申し入れたそうですが、さすがに断りました。
ゴスペルはプロの手によって作編曲されたものを指し、今日では黒人音楽として知られているかもしれませんが、アパラチア山脈のマウンテン・ゴスペルとか南部のサザン・ゴスペルがあり、黒人のものとは限りません。さらに、「アメイジング・グレイス」のような白人霊歌も含めて、今日ではゴスペルと呼ばれ、白人のみならず、今、日本でも盛んになってカルチャースクールに教室があります。
黒人教会の説教のスタイルは扇情的です。聖書の文句を唱えていてもそのまますぐに歌に変わっていきます。また、コール・アンド・レスポンスといって、牧師の唱えた言葉に続けて信者たちも歌い叫ぶ熱狂的なものです。皆で合唱しながら後ろの方では踊り出したり、足を踏みならしたり、叫んで失神するものまで出てきます。積もり積もったストレスを発散して教会の礼拝ですっきりして帰るようです。
このような教会の聖歌隊から有名な歌手が出ていますし、逆に歌手が牧師になって教会に戻ることも多いのですが、キリスト教の愛を歌い上げるのか、人間の愛を歌う世俗的な歌かの違いで、基本的には似たようなことをやっています。牧師は歌手なのです。

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